1986年夏 その1

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 初めて海外に行った年は1986年だった。この年の4月ソ連のチェルノブイリで原発事故があった。その年の8月初めて行った外国はあろうことかそのソ連だった。今の様な情報過多の社会だったら行かなかったかも知れない。その当時のソ連はまだペレストロイカも始まったばかりで、それから数年後国ごと無くなってしまうなどとは考えられなかった。

 チェルノブイリ事故よりもペレストロイカよりも、僕の初めての海外旅行に影響したのはその前年1985年にニューヨークで開催されたプラザ合意だった。レーガン政権の元、大きな財政赤字に陥っていたアメリカの財政危機を回避するために、先進国がニューヨークのプラザホテルに集まってその後のドル安政策を取ることに合意した。結果日本円の対ドルレートは大幅に円高に振れた。1985年から1年間の間で1ドルは260円ほどからほぼ倍の130円前後になった。

 当時、京都の大学を卒業して東京の会社に勤め始めて3年目の僕の夏のボーナスは手取り20万円を切る位だったと思う。少ないなぁとは思いながら、それでも気楽な独身者の僕は何に使おうかと考えていた。そんなある日一人の会社の同期が為替レートの変動のニュースを聞いて「このボーナスを海外旅行に使えば1年前に比べて2倍楽しめるという事になる」と僕に海外旅行を持ちかけてきた。それから二人で当時あった分厚い旅行情報誌をめくって、どの海外旅行がより得かの検討が始まった。